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【第2回】「安定した職業」の性質が変わる

  • 特集 2021年11月10日
  • イノベーション・ラボラトリ株式会社 代表取締役  
    横田 幸信氏
【第2回】「安定した職業」の性質が変わる

【連載メインテーマ】新型コロナを経験した私たちの価値観変化と未来社会の洞察

 

i.labでは、 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響によって私たちの日常が中長期的にどのように性質変化するのか、社内研究プロジェクトとして未来社会の考察を行なってきました。

i.labは、社会や経営の課題に対して、創造的な成果物を生み出すための思考方法やプロセスを設計し推進することを得意としています。連載第2回となる本稿では、未来社会の考察により見えてきた、具体的なトピック「安定した職業」に関する人々の価値観・行動変化についてご紹介します

目次
  1. 出勤の必要性を1日の始まりに判断する日常が与える、仕事の価値観への影響とは
  2. 在宅勤務が増え、「個」としての能力と業務遂行を誰もが強く意識するように
  3. 「安定志向」の新しい実現方法としての兼業・副業へ
  4. 企業だけではなく、個人でも「両利きの経営」が実践されている
  5. 本シリーズでは、5つの未来社会シナリオを紹介

1. 出勤の必要性を1日の始まりに判断する日常が与える、仕事の価値観への影響とは

朝目覚めてご飯を食べ、着替えて、電車や車で通勤し、オフィスに午前9時頃には到着している。そんな毎日が私たちの普通でした。その普通を少しでも揺り動かすような、例えば客先に直行する時、子供の送り迎えで出社が遅くなる時などは、同僚や上司に連絡することで、オフィスを中心とした皆の考える平衡状態を皆で保っていました。

 

COVID-19の影響により、私たちの1日のスタートは激変しました。まず、オフィスに出社することは普通ではなくなりました。これまで無意識的に出かけていた朝のルーチンは変更され、まず「今日はオフィスにいく必要あるか?」という自分への問いかけから始まります。オフィスに行くにしても、在宅で勤務するにしても、その予定を同僚や上司ではなく、同居する家族に伝え、オフィスではなく自宅内での平衡状態を家族で保つ思考と行動に移ります。家の中での仕事場所はどうするのか、子供のケアはどのタイミングに誰がするのか、昼食はどうするのか、など、家庭生活の平衡状態を強く意識しながら、1日がスタートするようになりました。

 

1日全体に目を向けると、私たちの担当する仕事内容や役割は、コロナ前と後ではそれほど変化していないかもしれません。しかしながら、質的変化の生じた1日の仕事のスタートの切り方は、私たちの仕事に向かう価値観に大きな影響を及ぼしています。

2. 在宅勤務が増え、「個」としての能力と業務遂行を誰もが強く意識するように

1日のスタートは、会社の一員としての自分を無意識的に受け入れ出勤し、オフィスに入り、そのコミュニティー意識をより強固にする「イニシエーション」ともいえる体験から毎日が始まっていました。

 

コロナ後の私たちの1日は、会社コミュニティーの一員ではなく、仕事的側面と家庭的側面を持ち合わせる一人の個人を強く意識するところから開始されます。そのマインドセットで臨む業務時間は、会社コミュニティーやメカニズムの中の「一つのギア」としての自分の役割というよりは、「一人の人間」として、会社に対して自分が担当する業務、自分が生み出す成果を強く意識することにつながっているようです。

 

在宅勤務の際には、当然ながら細かい時間の管理やPCを用いて何をしているかについて自分の背中側、左右にいる同僚・上司は「監視」をしていません。また、あなた自身も他の同僚・上司のことは視界には入らず、無意識的な「監視」をしていません。仕事に向かう姿勢や真剣さ、真面目さ、そういったこともあなた自身だけが管理することとなります。

 

自らも仕事内容や成果物、また仕事に臨む姿勢など、「自己管理」ということを強く意識する状況となりました。

3. 「安定志向」の新しい実現方法としての兼業・副業へ

マクロな視点において、日本の労働力の流動性はまだまだ低く、ビジネスパーソンのマインドセットの面でも、「自己成長」や「自分の市場価値向上」への関心は高まりながらも、安定志向がベースにあるという構造はあまり変わっていません。

 

兼業・副業は、COVID-19前からトピックとしては注目を集めていましたが、COVID-19が生み出した私たちの働き方変化により、不可逆的で大きなトレンドへと性質を変えたと考えています。

在宅勤務により生まれた、監視の目のない時間、監視の目の行き届かないデバイス利用により、私たちは「個」としての可能性をより高く評価してくれるところ、自らの能力や成果をお金に変える方法を探索するようになりました。

 

安定した働き口を目の前では「会社員」として確保しながら、自らの能力をより高い報酬に変換する「小遣い稼ぎ」、また長期的な個人としての「成長」や「市場価値向上」の挑戦を、副業・兼業という形で実現するようになりました。

 

この現象の先にある未来の社会シナリオを理解する際に、重要となるのは、特に「総合職」で採用されたビジネスパーソンにとって、兼業・副業の動機が単なる「小遣い稼ぎ」や「自己成長」だけではないことです。その動機のベースには、やはり「安定志向」があります。

在宅勤務の状況で、誰からも見えない自己管理の時間、自分を奮い立たせて自分が所属する会社にコミットすることが、自らの長期での安定につながるとは考えていないようです。むしろ、小遣い稼ぎや自己成長などの言葉上の理由を見つけつつ、自らの市場価値を確認し安心感を得たり、ビジネスネットワークを広げ、将来の転職や不測の事態に備えておく、そうした「安定志向」をベースとした動機のメカニズムが読み取れます。

 

つまり、「安定志向」の実現の仕方が、会社へのコミットメントから、社外・社会に向いた兼業・副業といった形となっていきます。

動機のメカニズムを広い意味における「安定志向」と考えると、この兼業・副業のトレンドは一部の意識と能力の高いビジネスパーソンの出来事だけではなく、より広い人材の現象へと拡大していく可能性を持っています。

4. 企業だけではなく、個人でも「両利きの経営」が実践されている

既存事業の「深化」と新規事業の「探索」を両立することによる企業の持続可能性向上を提唱する「両利きの経営」という経営理論があります。

これまでご紹介した、COVID-19の影響による、人々の働き方変化、価値観変化は、個人レベルでの「両利きの経営」の実践ともいえるかもしれません。

 

自分の将来の可能性を「探索」するための興味や稼働が、所属企業には向いておらず、社外に兼業や副業といった形で実践されているということです。すべての方がそのような状況ではないでしょうが、そのような方が急増している傾向は事実です。

 

また、前述したように、その動機は、一部の成長意欲や能力の高いビジネスパーソンに見られる表層的な「小遣い稼ぎ」や「自己成長」ではなく、ベースにある「安定志向」にその本質があるので、安定志向を是とするより多くの一般社員の人が今後そのような行動を取るようになることが示唆されます。

 

この状況が、会社経営者の方にとって好ましいかどうかは別として、現在のリアルと未来社会のシナリオとして、調査結果及び考察をご紹介させていただきました。

5. 本シリーズでは、5つの未来社会シナリオを紹介

個人が抗えない社会の大きな変化を起点に未来のバリエーションを考える「シナリオプランニング」、個人の極めて個性的な部分を起点に未来の普通を考察する「エクストリームユーザーインタビュー」、そして、自分たち自身を調査対象とした「価値観・行動変化調査」を紹介してきました。

本連載の記事では、これらの調査から見えてきた以下5つの未来社会シナリオについて紹介していきます。

 

 ・「安定した職業」の性質が変わる(本記事)

 ・「暮らしの隙間」に趣味を見つける

 ・「地味な小旅行」を満喫する

 ・「私の正義」の先鋭化

 ・「休む」を科学的な知見で管理する

著者プロフィール

横田 幸信

イノベーション・ラボラトリ株式会社 代表取締役

 

i.schoolディレクター。早稲田大学ビジネススクール(WBS)非常勤講師。九州大学理学部物理学科卒業、九州大学大学院理学府凝縮系科学専攻修士課程修了、東京大学大学院工学系研究科先端学際工学専攻博士課程中途退学。修士課程修了後は、野村総合研究所にて経営コンサルティング業務に携わる。その後、イノベーション教育の先駆者である東大発イノベーション教育プログラムi.school(旧名:東京大学i.school)では、2013年度よりディレクターとして活動全体のマネジメントを行っている。イノベーション創出のためのプロセス設計とマネジメント方法を専門として、コンサルティング活動と実践的研究・教育活動を行っている。近著に「INNOVATION PATH」(日経BP社)がある。

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