新卒以来、リクルートや採用系スタートアップの役員としてのご経験から、ご自身の「志」の下に社会に変革をもたらす経営者・リーダーをプロデュースする経営者JPを創業された株式会社 経営者JPの代表取締役社長・CEO 井上和幸様に、今の製造業が直面する課題を解決するリーダー人材・組織作りについてお話を伺いました。
今回は井上様の原体験や、製造業を取り巻く採用動向についてご紹介します。ジョブ型雇用やハイクラス人材の転職業界が盛り上がる中、「長期雇用は大事」という井上様のお話を詳しく伺います。
社会に変革をもたらす経営者・リーダーをプロデュースする経営者JPを立ち上げた「志」
早速ですが、井上様のご経歴と経営者JPの事業紹介をお願いします。
経営者JPの井上と申します。元々はリクルート出身で、就職活動中にリクルート事件が起き、その翌年に入社しています。リクルートでは人事、広報を経て、教育系機関のプロモーションを支援する新規事業のマネジャーを務めました。また、当時90年代後半でインターネットが出てきたときでしたので、インターネットサービスの立ち上げも兼務でやらせていただきました。
2000年からは友人が立ち上げていた、主に大手の新卒採用を支援するスタートアップに参画し役員を4年ほど務めました。その後はリクルート・エックス(現・リクルートエグゼクティブエージェント)という、幹部層を中心とした採用を支援する、リクルートの新しい子会社に参画しました。そこで6年ほど、そのうち4年強は役員を務め、参画時から事業規模を10倍ほどまで拡大できました。
また、そこで非常に良い経験をさせていただいた中で、私自身の思うところ、やりたいことができて立ち上げたのが経営者JPです。
経営者JPは2010年の4月に開業し、創業13年になりました。
経営者JPには(1)エグゼクティブサーチ事業、(2)コンサルティング事業、(3)セミナー事業、(4)会員事業の4つの事業があります。今まではこの(1)エグゼクティブサーチという、幹部クラスの採用を支援する事業が主な事業比率を占めています。
ただし、弊社の中長期的な観点では、この(1)エグゼクティブサーチはどんどん拡大しつつ、(2)セミナー事業、(3)会員事業、(4)コンサルティング事業という残り3つの事業をまとめてプラットフォーム事業本部とし、基盤作りを進めていきます。今はかなり形ができてきましたので、いよいよこちらのプラットフォーム事業の拡張にも取り組み始めている状況です。
リクルートに入られた頃は、人材業界もインターネットの動きなど事業の変革期だったのですね。
実はリクルートの本社にいた時代、求人事業やHR事業には直接携わっていませんでした。ただし、人事で採用を中心に担当した時期と経営企画部門内の広報にいた時期を合わせて約7年ほどは主にHR事業を担当していました。
そういった意味では当時のHR事業がどんな動きをしているかは結構関わらせていただいておりました。ちょうどバブルが崩壊した頃でしたから、リクルートも事件より実はバブル崩壊の影響の方が大きかったように覚えています。
かなり内部的な話ですが、事業再編を当時HR部門でも実施しており、その辺りには経営企画部門の広報としても関わらせていただきました。簡単に言うと、新卒領域と中途領域、また「ガテン(現タウンワーク)」などといった現業職系の領域、この3つの事業を合併することが、リクルートの歴史の中では結構大きな流れでした。
内部からの反発はありましたが、冷静に見るとリクルートは当時一番厳しかった時期だと思います。自分自身は当時はまだ若手中堅クラスでしたが、いろいろと起こっていることを乗り越える施策作りをリクルート本社時代に見させていただきました。
その次に教育系の新規事業のマネジャーを務めたときは、世の中的にリストラも結構激しく、就職氷河期という言葉ができたときでした。そういったことにどう対処していくかを真剣に考え、この問題に対する支援をリクルートもやろう、ということを決め、立ち上げたのが、私が携わった「社会人のキャリアをいろいろな意味でサポートする」というコンセプトの新規事業でした。
例えばMBAやビジネス英語を学ぶといった内容も当然ありましたが、一方で当時ちょうどインターネットが出てきた中でデジタルクリエイターなどもあれば、例えばお花屋さんをやるとか、整体師になるなど、独立開業といった道のように、キャリアといってもいろいろあります。われわれの新規事業では、このように、世の中にありうるキャリアの方向性をかなり広く切り取って扱っていました。そしてそれぞれの方向に踏み出していくために正しくキャリアを伸ばしていく、あるいはキャリアチェンジするためにもいろいろ学んで、自身がやりたい方向性に出ていく…今でいうリスキリングのようなことに投資する動きが、90年代半ばから後半にかけてありました。政府による教育訓練給付制度という仕組みができたのもその頃です。その中で、多様な人たちの多様なキャリアを考えるといったことにも関わらせていただきました。日本がそれまで高度成長期で、イケイケでいけば良かったところから、いろいろなことを考えなければいけない時期でした。
今から振り返ると、私が今やらせていただいていることの中で原体験にもなっていると思いますし、良い経験をさせていただいたと思っています。
製造業における2023年の人材動向~長期雇用の行方~
では、2023年の人材業界および産業全体の動向、また製造業業界はどうなのか、特徴があれば教えてください。
2023年見通しということで、コロナやウクライナの問題等々で政情不安があるのは事実です。一方で、さまざまな原料価格が上がっていることで、あれだけ安倍・黒田体制で物価を2%上げると言って上がらなかったものがこの1年で簡単に上がっている、そういうことが今突きつけられている環境だと思います。
こうした状況ですが、今の求人環境の基調としては、かなり根強く活況が続いています。総論として、どの会社も人が足りない状況です。弊社もその中で幹部採用や経営者採用など、育成も含めて支援しておりますが、なかなか充足しません。これは若手や中堅もそうですし、いわゆるテンポラリーワーカーになるスタッフの方や営業職系も、それぞれ理由は少しずつ異なりますが総じて全セクターとも人手不足が根強くなっており、2023年もその基調はかなり強まると感じています。いくつかの企業が取ったサーベイを見てもそのような傾向です。
製造業業界での特徴はありますか。
結論として、製造業に関しては人手不足とリストラが同時並行に起こっているというのが最も特徴的だといます。これは他の業界もそうですが、特に人手不足とリストラというのが顕著に見えやすいのが、良くも悪くも製造業だと思います。
一方で、これまでの労働集約的な観点でいうとだぶついている部分があるのも事実です。それをそのまま抱えているという意味では、コスト問題等々含めてまずい、ということで手を入れざるを得ません。そのリストラクチャリングが大なり小なり起こる。しかし、リストラをして絞るだけではうまくいかず、一方で不足している部分を一生懸命に採用しようとしています。
このミスマッチのようなところが、働いている人たちにとってはもどかしく、どうなっているのだろうと感じる部分かと思います。単純に母数で少ないというだけではなく、今まで必要だった人材とこれから必要となる人材が少しずつ変わりつつある、ということはいえるでしょうね。
一般論で最近よくいわれるところですが、AIや自動化、無人化でイノベーションを起こしている新しい会社はいっぱい出てきていますが、そうした動きの中で、それまで人でやってきたところが自動化すると、人手に頼っていた業務・作業は少しずつ少なくなるということではありますよね。
ただ今後、自動化や無人化、効率化を進める中で、その仕組みを作っていくDX人材が圧倒的に足りないし、企業側としては採用したいということですよね。
今までは長期雇用の観点で、同じ事業の中で時間をかけて育てていくプロパーメインだったところ、急速な変化の中で戦うために外部の人材やスキルを組み込みたい意図があるのでしょうか?
企業ごとにいろいろな考え方があると思います。最近はメンバーシップ型とジョブ型などよくいわれますね。また、私の古巣のリクルート(リクルートダイレクトスカウト)もそうですし、ビズリーチや最近ではdoda(dodaX)など、ハイクラス系の転職ニーズが多くなっているのは事実です。
ただし、あくまでも私見としては、外部から即戦力を持ってくることばかり考えるよりも育成を強化した方が良いです。しがみつくような終身雇用を肯定するものではありませんが、長期雇用は大事だと私は思います。変化に対応できる形で、リスキリングしながらやっていける方が良いと思います。
ただ、人材に求める部分は常に変わりますから、もともといらっしゃる方々の強みだけでは対応しきれないということが時代の変わり目で起きています。ここ最近のDXでいうと、プロフェッショナリティの高い方々を外部に求めるケースはより強くなっているのでしょうね。
長期雇用は良い面もあるので人材育成は継続していく必要があり、それを捨てるのではなくプラスアルファで外部からも取り入れたい、というところですね。
その辺りがうまくミックスされると良いと思います。
時代の流れの中で日本の人口が減り始めていたり、全体的に見て日本人の平均年齢が上がっていたり、その中でどのように今後明るい未来を作っていくのか。製造業では、新卒を中心に採用して横並びで教育しながら徐々に差をつけていき、その中で役割的な意味で上位の方を残す、といったやり方が多いかもしれません。しかしこれからは、年齢だけでラインを引くのではなくて、年齢的な意味で若かろうがシニアだろうが、どういう役割を負っていただけるのかに応じてフラットに役割を作るようにしていかないと、持たないと思います。
次回
第2回「大手vs中小企業、国内vs海外市場...日本製造業の課題とは?」
第3回「DXは一人にして成らず~社内人材の活用と経営陣の意識改革~」
第4回「ジョブ型雇用はもうすぐ終わる?今、必要な組織デザインとは」
第5回「日本製造業のゲームチェンジに必要な『経営者力』」
第6回「『この指とまれ』でつながるイノベーション」
プロフィール
井上 和幸(いのうえ かずゆき)
株式会社経営者JP
代表取締役社長・CEO
1966年群馬県生まれ。1989年早稲田大学政治経済学部卒業後、株式会社リクルート入社。人材開発部、広報室、学び事業部企画室・インターネット推進室を経て、2000年に人材コンサルティング会社に転職、取締役就任。2004年より株式会社リクルート・エックス(2006年に社名変更、現・リクルートエグゼクティブエージェント)。エグゼクティブコンサルタント、事業企画室長を経て、マネージングディレクターに就任。
2010年2月に株式会社 経営者JPを設立(2010年4月創業)、代表取締役社長・CEOに就任。経営者の人材・組織戦略顧問を務める。企業の経営人材採用支援・転職支援、経営組織コンサルティング、経営人材育成プログラムを提供している。人材コンサルタントとして「経営者力」「リーダーシップ力」「キャリア力」「転職力」を劇的に高める【成功方程式】の追究と伝道をライフワークとする。 実例・実践例から導き出された公式を、論理的に分かりやすく伝えながら、クライアントである企業・個人の個々の状況を的確に捉えた、スピーディなコンサルティング提供力に定評がある。自ら2万名超の経営者・経営幹部と対面してきた実績・実体験を持つ。
日本経済新聞、日刊工業新聞、プレシデント、AERA等様々なメディアへの取材・コメント・出演実績のほか、主な著書として 『社長になる人の条件』(日本実業出版社)、 『ビジネスモデル×仕事術』(共著、日本実業出版社)、 『プロフェッショナルリーダーの教科書』(共著、東洋経済新報社)等がある。
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