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#01 横河電機が中期経営計画「Accelerate Growth 2023」に込めた思いとは?

  • インタビュー 2021年11月24日
  • 横河電機株式会社 代表取締役社長  
    奈良 寿氏
#01 横河電機が中期経営計画「Accelerate Growth 2023」に込めた思いとは?

計測・制御機器メーカーの国内最大手である横河電機株式会社 代表取締役社長 奈良 寿(なら ひとし)氏に、横河電機が掲げる中期経営計画と重点戦略、およびコーポレートガバナンス(企業統治)への取り組み等についてお伺いしました。

 

 

10年先を見据えた持続的成長のために、「社会共通の価値」から長期経営構想を見直す

 

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2021年は、新中期経営計画「Accelerate Growth 2023」の1年目となります。横河電機に対するイメージや社外との関係性を、どのような形に変えていきたいとお考えですか。

 

 横河電機が身を置く計測・制御機器業界は、地味ではあるものの生産活動を行う上で欠かせない「産業のマザーツール」を産業界に提供しています。横河電機のコアコンピタンスを一言で表現すると、「計測して、制御して、それらの情報を束ねて価値のあるものにする」ということになります。これは人の営みの基本となるものであり、社会、産業のみならずいろいろな形で社会に広く貢献できる技術です。

 

 横河電機の主なお客様はプロセス産業の方々です。長年にわたり、さまざまな業種のお客さまに向けてビジネスを展開してきましたが、オイル、ガス、ハイドロカーボンといったエネルギーインフラに関連するお客さまが非常に多いことが特徴です。

 国内の市場と比べると、海外はまだオイルやガスのビジネスが主流です。お客様の課題を解決し、生産の効率化と最適な操業を24時間365日にわたり、グローバルにサポートしています。お客様からは「信頼性の高い多様な製品を幅広く提供し、ニーズに合わせてそれらをインテグレートし、プラントのライフサイクルに応じたソリューションをワンストップで提供する会社」というイメージをもたれています。

 

 先ほどもお話ししたように、私たちはもっと多くの人の営みに対して価値を提供できる可能性があります。より多くの社会的課題の解決に直接貢献できると信じています。近年、ESGSDGsが重要視されるようになってきましたが、社員全員にこれらを深く意識をさせて事業活動を進めています。お客さまのビジネスにおける生産性の向上や効率化だけでなく、安全・安心なオペレーションをサポートすることは、お客様のビジネスの確実な成長を後押しするもので、持続可能な社会への貢献にもつながっていきます。

 

 昨今、外部機関からも私たちが取り組んできたさまざまな活動に対し、高い評価をいただいています。積極的にメッセージを発信してきたこともあり、私たちが提供している価値を理解し、共感を示してくれています。財務と同じようにESGSDGsの観点からも、外部に創造した価値を説明していかなければ、投資家やステークホルダーからの評価を得ることは難しいです。グローバル企業として地域の特性を見極めながら提供するべき価値を訴求し、コミュニケーションを促進していくことが重要だと思っています。

 

 また、社会的課題の解決については、具体的にKPIに落としこんで進めています。世の中がこういう動きをするから私たちも何かしなくてはというスタンスではなく、私たちがベースとしている事業分野、日ごろから密着して行っている事業活動が、社会的課題の解決に貢献していくというようにとらえています。実現の可能性を担保するため、社員一人一人の業績評価指標(OKR)に落とし込むことによって、社員の意識の強化と現場レベルにおける取り組みを組織的に推進しています。

 

 

新中期計画の策定にあたり、長期経営構想から抜本的な見直しをされていますね。

 

 ここ数年の事業環境の変化は、想定できないようなことが増えてきています。ハイドロカーボンからクリーンエネルギーにシフトする流れもそうですが、とにかく変化が早いです。OTOperational Technology)におけるコアコンピタンスは十分に活かしていますが、これからはOTITのコンバージェンスの波がさらに加速すると考えています。

 

 持続可能な社会を支えていくため、このコンバージェンスの流れを積極的に活用していたところに、COVID-19の感染拡大による世界的な混乱が起こりました。他社の経営者の多くに話を聞いてみましたが、ウィルスのまん延という視点から事業継続計画(BCP)を考えていた会社は少なかったように感じます。世の中は何が起こるかわからないということを冷静に受け止めた上で、10年後の姿を描き出し、そこからのバックキャストで向こう3年間の取り組みを今一度見直すことにしました。

 

長期経営構想の検討は、どのように進めましたか。

 

 「社会共通の価値」を重視したいという強い思いがありました。そこで、「横河電機の存在意義(パーパス)」と「10年後のありたい姿」について、世界60カ国以上、約18000人の社員に問いかけを行い、意見や考えを集めることにしました。

 

 社員からは「社会に貢献しながら成長したい」という意見が多数寄せられました。海外は共感することを大切にする傾向が見られ、創業100年以上の歴史を通して培ってきたノウハウ、そして技術を貴重な財産として受け継ぎながら、社会にもっと活かしていきたいという思いが強いようです。日ごろは短期的な活動に目線がいきがちなのですが、特に若手の社員の意識レベルが高く、多様な意見を多く投げかけてもらいました。

 

 

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 経営者がビジョンを語り、それを一方的に社員にメッセージとして伝えるだけでは、組織全体を方向付けていくことはできません。マネジメント層と現場の人々の間には情報の非対称性があり、一律の解釈だけでは伝わらないからです。先ほども触れたように、会社の方向性を社員一人一人の業績評価指標(OKR)に落とし込んで運用していますが、各個人のツールとして利用する一方で、マネジメント層と現場の人々との認識のギャップを埋めるためのコミュニケーションツールとしても活用しています。長期経営構想の検討においても、社員が持つ価値観や思い描く未来に耳を傾けながら経営方針に取り込んでいくことで、取り組みへの意識や進むべき方向性を一体感をもって共有することができたと感じています。

 

第2回へ続きます。

公開済み

#02 多種多様な機器をつなげて最適化するインテグレーションの力が、SoSの世界観を後押しする

#03 マーケットの視点でセグメント管理体系を刷新、人財戦略とМ&A・協業で事業を育てる

#04 思い切った組織機能の再編と社員の意欲を後押しする施策で、風通しの良い環境を作る

 

Date:2021.8

プロフィール

横河電機株式会社 代表取締役社長

奈良 寿(なら ひとし)

1985年横河北辰電機()(現横河電機)入社。主力の制御事業の営業部門で経験を積み、国内外の子会社の社長やライフサイエンス関連の新事業の立ち上げを経て、2019年から現職。本年5月に発表した新中期経営計画「Accelerate Growth 2023」では、独立したシステムが連携し単独では達成できない目的をシステム全体として創発的に実現するSystem of Systemsを、デジタル技術を用いてOTITの両面からリードし、さらなる企業価値向上と持続可能な社会の実現への貢献を目指す。

 

 

インタビュアー

株式会社プライアルトス 鈴木 眞由美

 

 

※本記事内の会社名、および役職は掲載当時のものです。

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